取り組み事例紹介

伊藤忠商事株式会社

〈業種〉卸売 ─〈分類〉コミュニケーション(対人適応)

企業文化の体得を目指す海外拠点(現地法人・海外支店・事務所)から本社への受入出向

Q. 外国籍社員活用の背景と現状を教えてください。

当社は1858年に初代伊藤忠兵衛が麻布の行商で創業したことにルーツを持ち、現在は世界75ヶ国に150以上の拠点を持つ大手総合商社として、繊維、機械、情報通信・航空電子、金属・エネルギー、生活資材・化学品、食料、金融・不動産・保険・物流の各分野において国内、輸出入及び三国間取引を行う他、国内外における事業投資など、幅広いビジネスを展開しています。数値上の海外収益比率は60%程ですが、純粋な日本国内ビジネスを除く海外関連ビジネスを含めると、実に約80%を占めます。このようなビジネス形態の中で、日本のみならず全世界で収益を最大化するために、現在 世界人材戦略を経営の重要施策の1つとして推進しています。世界人材戦略を推進するにあたっての基本的な考えとして、個々の役割・能力に応じた、公正な評価、育成・キャリア開発における機会平等、適材適所の人材配置を行いながら、海外ではトップを含めたシニアマネジメント層において人材の現地化・多様化を進めると同時に、本社においては、人材の多様化を通じて、更なるグローバル化を推進していく方針です。また、グループ全体で人材を育成・活用するために、ビジネスニーズに基づき異なる国・地域間での人材の交流及び活用を促進すると共に、色々な地域や国で働くことを厭わないモビリティーの高い人材の採用を行っていきたいと考えています。現在本社において、大勢の外国籍社員が活躍していますが、日本への留学生採用を中心とした本社採用は勿論のこと、海外現地スタッフの本社への受入出向(inpatriate、逆出向)も積極的に進めています。

Q. 海外現地スタッフの受入出向について詳しく教えてください。

これは世界各国の海外現地スタッフを2年程度を目安に本社に受け入れるというもので、当社ではNS本社UTR制度と呼んでいます。NSとはNational Staff、UTRとはU-turn Rotationという意味です。2008年度より本格的にスタートし、業務の習得、当社の企業理念・社風・文化の理解、人脈形成の機会を提供することで、将来のリーダーを育成すると共に、本社のグローバル化を目指すことを目的としており、原則各営業部門・職能部に1名以上受け入れしています。人数的には、この2年間で東京本社に約50名の受け入れを行いました。
 当社社員としての企業理念・考え方などについては、海外現地スタッフも通常は現地に派遣されている日本人駐在員との日々の業務・コミュニケーションを通じて理解しているものの、業務プロセスや社風などの理解については、海外における与えられた一定範囲内の業務を通じてのみとなってしまいます。日本に実際に住んで本社で一定期間働くことで、より広く伊藤忠商事の社風や業務プロセスを学び吸収することができ、非常に大きな意味があると考えています。地域別では中国・韓国・シンガポールといったアジア諸国の他、北米・欧州・中南米等世界各国から受け入れしていますが、ビジネス上のニーズも考慮に入れていることもあり、結果的に半数近くは中国からの受け入れとなっています。また、言語については8割程度が日本語で業務を推進できる方となっています。
 実際に派遣されてきている海外スタッフからは、本社での業務プロセスや業務知識の習得・人脈形成など、研修・キャリア形成という点で非常に有益であり、良い経験が積めているとの意見が大半となっています。本社の受入部署としても、多様な価値観に基づいた仕事の進め方を学ぶ機会になりますし、日本にいながらにして現地の文化、最新事情などを理解できるという点でお互いにメリットがあるのです。

Q. 受入出向における取り組んでいる施策、工夫点などについて教えてください。

本社の受入体制としては、従来日本語のみであった社内のイントラネットを2年前に日本語・英語併記としたり、入居する社宅での多言語・多文化対応を図るなど、DLI(Dual Language Initiative)対応を行ってきました。受け入れ当初は多くの課題がありましたが、都度対応してきましたので、現在は特に大きな問題は発生していません。昨年秋には、受入部署や派遣元組織に対してNS本社UTR制度に関するアンケートを実施しましたが、海外から優秀な人材が派遣されてきているということもあり、双方共に肯定的な評価となっています。
 制度の趣旨に沿った運用をきっちり行うためには、まずは本人・派遣元組織・本社受入部署の3者間で派遣前に目的を明確化しておくということが大事です。同時に、直属の上司と本人との面談を通じ育成計画や期待すること等をきっちり認識させるのみならず、人事部もそのプロセスに関与することできめ細かな対応を行っています。更に、日本滞在中に派遣元組織と本人とのコミュニケーションが疎遠にならないように、定期的なレビュー及び状況のフィードバックなども行っています。

Q. 今後の課題や取組についてのお考えはありますか。

今後は受入出向の期間を満了し、帰国するスタッフが増えてくるので、本社での経験を活かし帰国後更に活躍してもらう為の仕組みづくりが課題になると考えています。帰国後は日本に来る前よりも、よりステップアップをした仕事に取り組んでほしいと思いますので、本社からもできるだけ細かくフォローしていきたいと思っています。また、A国で経験を積んだ人材をB国で登用するという、所謂「海外現地スタッフの第3国での登用」はビジネスニーズに基づき従来から行ってきましたが、今後はビジネスの更なるグローバル化に伴い、3国間の人材流動化を通じ、採用国以外で活躍する人材が増えてくるものと考えています。
 アジア、とりわけ中国はその経済規模からいっても当社のビジネスにとって今後益々大きな存在となってきますので、いかにして継続的に優秀な人材を獲得し、育成していくかというのが今後の取組課題です。

〈企業情報〉
伊藤忠商事株式会社
設立 1949年12月1日
決算期 3月31日
東京本社所在地 東京都港区北青山2-5-1
大阪本社所在地 大阪府大坂市中央区久太郎町4-1-3
資本金 2,022億4,100万円(2009年4月1日現在)
売上 12兆651億900万円(2009年3月期:連結)
従業員数 単体4,175名 連結55,431名(2009年3月31日現在)
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