取り組み事例紹介

国立大学法人 大阪大学

OJE演習、インターンシップ、寺子屋式合宿の3つを通じた実践的な能力育成

Q. 貴校における留学生支援の取り組みについて教えて下さい。

本学では、平成19年度から24年度に経済産業省、文部科学省が実施していたアジア人財資金構想を受託したことを契機に、平成20年度に工学研究科に高度人材育成センターを設立とともに、その中にアジア人材教育部門が設置されました。
 アジア人材教育部門では、ものづくり企業の雇用問題解決やグローバル化に向け、高度な専門教育のほか、産学連携専門共通科目を産業界との協働によるケーススタディや複数回の長期インターンシップなどにより、ビジネス会話能力と日本文化を理解した環境共生型ものづくりの人材教育システムを開発、実施しています。日本への留学を魅力あるものとし、継続的にアジアからの優秀な人材を獲得、高い専門性と高い倫理観と共に、「アジアに拠点を置いたものづくりを展開するリーダー」を育成し、もって、我が国のものづくりの産業競争力強化と留学生による企業のグローバル化を図る目的に、毎年5名程度の留学生を受け入れ「アジア人材育成プログラム」を実施しています。

Q. 貴校におけるアジア人材育成プログラムではどのような教育を行っているのでしょうか。

プログラムは大きく分けて、4つあります。それらは、(1)産学連携によるモノづくりに重点を置いた専門教育と実践力の育成を行う専門科目、(2)日本企業でのコミュニケーション能力向上並びにビジネスに必要な日本語教育、(3)日本企業への適合能力を養成するためのインターンシップおよび企業戦略説明会、(4)企業人としての実践力を身につけるためのOJE(On the Job Education)演習および寺子屋式合宿などです。
 専門科目については、機械工学、マテリアル生産科学、電子情報工学、環境・エネルギー、応用化学など、留学生は各専門の専攻に配属され、各専門科目の授業を受講する(30単位以上)とともに、産学連携によるモノづくり専門共通科目(「環境・倫理に関わる科目群」として製品リサイクル設計、リスク論、環境共生技術開発の歴史と展望、環境共生時代の技術経営戦略、日本企業の経営理念と環境共生、技術者・工学者倫理、「マネジメントに関わる科目群」として、日本企業におけるリーダシップ、日本型プロジェクトマネジメント、OJE方式による演習Ⅰ.Ⅱ、技術融合基礎論、機能性材料・構造デザイン論、ビジネスとエンジニアリング、「日本型ものづくりに関わる科目群」として、生物の動きと生物機械、日本のものづくり実践論、持続型ものづくり論、技術開発の歴史から20単位以上(10科目以上)を受講します。合計50単位以上修得するので、大変忙しいコースです。
 日本語教育については、通常の留学生と同等の基礎編に加え、応用編を受講するとともに、OJE発表会などを通して日本語能力アップを図ります。また、日本企業でのコミュニケーション能力向上を図るため、ビジネスに必要な日本語教育を実施しています。(ビジネス日本語能力テストJ1取得を目標)
 日本企業への適合能力を養成するためのインターンシップ、企業戦略説明会は、長期インターンシップと大学内で企業人と一緒に取り組むインターンシップ・オン・キャンパス(5月~10月)や企業戦略説明会により、企業人との接触を深め、モノづくり文化・企業風土を理解し、日本企業への適合能力を養成します。
 企業人としての実践力養成のためのOJE(On the Job Education)演習および寺子屋式合宿では、・ケーススタディによるグループ討議を通してチームワーク、コミュニケーションの重要性を学習します。また、インターンシップ・オン・キャンパスでは、企業提供のテーマによるOJE演習により、課題解決能力と実践力の養成をしています。

Q. OJE(On the Job Education)演習について教えて下さい。

本プログラムでは、OJE演習、インターンシップ、寺子屋式合宿の3つを通じて企業が求める実践的な能力育成を行っています。
 OJEとは、On the Job Educationの略称で3つの学習目的を有する独自の教育方式です。学習目的の1つは、講義のみに留まるのではなく、知識と経験を蓄積し、研究開発からビジネス展開に至るまでの過程で重要となる強い思考力・決断力の育成です。2つ目は、課題から問題点の抽出と解決策の提案までを自らの判断で遂行させることで、技術のマネジメントを具体化できる能力の育成です。3つ目は、少人数グループ(3~4名)での演習による意志決定過程スキルの習得です。
 この演習は必修科目で、1年次に「OJE方式による演習1」を10月~2月の期間、2年次に先ほど説明したインターンシップ・オン・キャンパスとして「OJE方式による演習2」を4月~10月の期間、それぞれ週2コマ2単位でカリキュラム化していますが、学生は、自主的に休日も実施しているので、大変な時間となっております。この演習の進め方は、学生を3名~4名のグループに分け、それぞれ違うテーマ課題を検討するもので、学生間で互いにJob(仕事・責任)を課し、学生主導で解決していく形式を採用しています。
 留学生は、はじめはテーマが大きすぎて何から手をつけていいのか分からず右往左往しますが、条件を決めないと考えられないと気付き、序々に条件等を設定しながら課題に取り組み、課題設定→調査・問題発見→問題点分析→検討・提案→成果発表という流れで進めます。協力企業の方にも参加いただき発表会を実施するのですが、協力企業からは、発表・討論を通じて、積極的な傾聴力と理解力、ならびに論理的な判断力と表現力などのビジネス日本語育成効果も得られることができるとの評価を得ております。卒業生からは、大変な科目であったが、最も力の付いた科目の一つとの評価も得ております。

Q. プログラムの成果と今後の展望について教えて下さい。

これまで、約60名の留学生を受け入れ日本企業に輩出してきました。おかげさまで本プログラムの受講生は100%日本企業へ就職し、就職後の定着についても未だ家庭の事情等で退職した数名を除き日本企業で現在も活躍しています。
 これまで、留学生のキャリアに繋がる企業から支援を継続していただいていることが、事業に対し、概ね評価頂いていると考えています。しかし、どの社会もそうですが、継続した評価を得るためには、毎年右肩上がりを求められています。そのため、去年よりも今年、今年よりも来年と教育付加価値を付けて行かなければならないのが非常に難しい点です。
 もう一つは、行き詰まった日本の産業の中で活力(カンフル剤)となり得る人材の輩出を行いたいと考えています。そのためにはこれからの日本企業に必要となるバイタリティー溢れる人材のリクルーティングと育成を行いたいと考えています。
 将来、海外に人材育成人材像をアピールし、素養やモチベーションを持った人材を採用し、本プログラムで教育をすることでこれからの日本経済の発展に寄与する人材の輩出をしていきたいと考えています。彼らは、就職後、納税者となっているので、我が国に貢献しております。また、母国との連携も実施している修了生が出ていることは、それ以上の成果と思っております。政府もそのことを考慮頂き、奨学金の支援をお願いしたいところです。奨学金の支給は、経済的な点だけではなく、海外への事業に対する信頼性を高めるので、遂行にはこの上ない支援となります。

【取材の感想】

留学生のリクルーティングにより選抜した人材に対してから教育、就職支援までを一貫して行う取り組みは国内でも珍しく、特に就職率100%で離職率もほぼ0に近いという成果はすばらしい取り組みだと思いました。
 留学生が、日本企業に就職した後のキャリアまで見据えた教育が施されている点が非常にすばらしいと感じました。特に、寺子屋教育やOJEなど座学だけではなく、企業との接点により研究からビジネスに結びつける実践的な能力を身につけることが就業後の定着率に繋がっていると印象を受けました。

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